Home > JAM Essay > 『精神障害者の就労について - 社会貢献に意欲を持つ職業人たちの協力を得ることを考える』 岩田 利雄
メンタルケア協議会 会員。
精神の病に罹った人は、いつから就労ということを考えるべきなのでしょうか。
ヘルシンキにある国立精神病院では、初診のとき、医師、看護師、保健師、心理士、ケースワーカー、家族等が一緒になって数日かけて診断をしています。そのとき、本人が将来何をしたいのかを一緒になって考え、それが実現できるように治療を始めています。
松沢病院の伊勢田 尭(たかし)先生は、「価値意識を実現するための生活目標を特定し、その達成を支援するプロセスが危機解決と危機予防の基本である。」と述べられています。
就労は、本人が自分にとって価値あると考えていることを実現する一つの手段と考えられます。しかし、日本の社会では、当事者にとって自分の価値観に合った仕事は殆どありません。また、その価値意識が当事者にあるかどうかも問題なのです。上の二つの例からわかるように、就労とはっきり言わなくても、本人の将来を考えながら治療することは非常に重要なことであると思います。
自分がどんな仕事に向いているかということは、健康な人にとっても難しい問題です。「仕事の発見」が就労のために最も基本的なことですが、更に重要なことは、当事者の意欲を引き出すことです。しかし、これは非常に難しいことです。解決のための一つの方法は、社会貢献をしたい職業人の力を借りることでないかと思います。
2010年7月26日の朝日新聞の社説で「プロボノ、自分と社会と会社にも利」ということが書いてありました。プロボノという言葉は(公益のために)という意味で「職業人がNPO支援などボランティアで専門知識や能力を生かす活動のことだ。」と言っています。また、「プロボノをする人たちは、社会貢献に興味があったり、感謝される仕事がしたかったり」と言っています。このような職業人達と当事者達が、気楽な雰囲気で話ができるような場が当事者達の近くにあれば、そこに何回も通うことができ、そのうち互いに信頼関係が生まれ、仕事の話が少しずつできるようになると思います。その道のエキスパートたちは、その仕事の魅力と困難さを示してくれるに違いありません。その仕事の魅力は、当事者の心を強くとらえ、また、その仕事の困難さから社会の実情を知ることができるでしょう。そして、その話のなかに当事者が引き込まれたとき、失われた生きる意欲が湧いてくるのではないかと思います。
また、そのとき、新しい仕事が生まれる可能性も考えられます。いろいろな話を聞くことで自分の適性を発見でき、また、意欲のある人は自分に合った仕事を発見するでしょう。5年や10年はかかるに違いありません。
そして、目標は高くなければなりません。イタリアのトリエステ市では、木工製品を作るための指導者は一流のデザイナーです。その人の指導で作られた当事者の製品は、一般の市場で通用するのです。決して精神障害者の作品であるというレッテルは貼りません。
ところで、どのようにすれば、このような職業人達を集めることができるのでしょうか。朝日新聞の社説で、日本では、プロボノを行っている人達とNPOを橋渡しする専門組織にNPO「サービスグラント」があると言っています。そこで、この協議会も「サービスグラント」の協力を得て上に述べたようなことができないかと思いました。医師、精神保健福祉士等とサービスグラントのスタッフが一緒になって考えれば実現できるのではないかと考えています。ご検討下さいますようお願いいたします。
(2010.8.22)
(メンタルケア協議会 事務局スタッフより)
この原稿は、岩田様より、既に2010年8月にお送りいただいていたものですが、この度ようやく準備が整い、ここに掲載させていただく次第です。随分時間をいただいてしまったことをお詫び申し上げるとともに、改めて、原稿をお寄せいただいたことにお礼を申し上げます。