JAM Essay

『脳のエッセイ』 山本 健一

プロローグ

 中学時代、国語の先生から「少年よ、大志を抱け」と教わった。そのころ読んだ、原子物理学の少年向け入門書に刺激され、哲学的な悩みをもち始めていた私は、「哲学に進みたい」と言いだした。しかし父に相談したら、「哲学で飯は喰えん」と止められた。そして代わりに、「おまえは医者に向いている」と医学部へ行くことを勧められたが、その時はあまり気乗りがしなかった。高校時代のある日ふと「若い時代、小さな研究所のようなところで力いっぱい働き、年をとったら田舎で開業でもしながら哲学的なことを考える」という漠然としたイメージが湧いてきて、なぜか私は急にやる気がおき、モーレツ人間になった。

 しかし大学を卒業する頃にはこの志をすっかり忘れ、進路に迷い精神科の臨床の道に入ろうとしたり、生理学者の丁稚をやったりフラフラしていた。35歳の時、出来てまもない精神医学の研究所にたまたま拾っていただき、以前から興味のあった「精神医学と脳生理学を結びつける」という仕事に無我夢中で取り組んでいたら、早くも25年が過ぎた。

 臨床に戻って10年たち、いつ消えてもおかしくない齢になった今、高校時代の初志を思いだすと、後半がまだ何も出来ていないのに気づく。私の言う哲学とは本来の意味の哲学であって、森羅万象を広く深く考えることである。この機会を借りて、自分の後半の目標に挑戦してみたい。月1本くらいのペースで連載できればよいと思っている。私とともに、「哲学すること」を楽しんでいただければ幸せである。

著者プロフィール

 昭和18年生まれ。昭和42年東京大学医学部卒業。昭和大学烏山病院、東京都神経科学総合研究所等を経て、昭和53年から平成14年まで東京都精神医学総合研究所(精神研)で研究に従事。精神研元副所長、式場病院診療顧問、メンタルケア協議会副理事長。

 著書に『脳とこころ-内なる宇宙の不思議』(講談社)、『意識と脳―こころの電源としての意識』(サイエンス社)等がある。

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