家庭の主婦など仕事に従事していない者のうつ病からの社会復帰支援プログラムを開発する。有職者以外にも幅広いうつ病患者を対象に社会復帰支援を実施することで、多くのうつ病患者の長期化や不完全寛解、再入院のリスクを減らし、社会的役割を回復することが可能となる。
デイケア・ショートケアモデル、カウンセリングモデル、訪問モデル、福祉サービス利用モデル、混合モデルなど、モデル毎にさまざまなタイプの対象者を選び、6ヶ月間支援を行い社会生活レベルや病状の変化を評価する。他職種によるケース検討を行い、支援モデル毎の長所と短所、有効な支援対象と支援方法を検討する。
平成17年度患者調査によると、気分障害で外来通院している患者数は100万人と推計されている。精神科診療所に通院している気分障害患者の約15%が、半年以上通院以外の社会参加を行っていないことがわかっている。うつ病は、遷延化すると社会機能の低下が問題となりやすく、通院・在宅医療での積極的な支援が必要である。 有職者のうつ病に関しては復職という視点での社会復帰支援が注目されており、リワークプログラム等が開発されてきているが、家庭の主婦など仕事に従事していない者のうつ病に関しては社会復帰支援という視点がほとんど存在していない。
本事業はこれまで顧みられてこなかった家庭の主婦など仕事に従事していない者のうつ病からの社会復帰においてどのような支援が有効であるかを検討するためのものである。
平成20年度は、医療機関から女性のうつ病患者で社会復帰支援が必要と思われるケースを集め、試行的に3ヶ月、通院先医療機関で実施できる範囲の支援を行った。支援ケースの中には、夫や子どものいる専業主婦の他、学生のうちに発症しアルバイト程度しか就労経験のない若い女性、親と同居し家計も家事も依存したまま中年を迎えた独身女性、老年期に入っているが介護保険給付を受ける対象ではない女性など、さまざまなタイプがあり、社会的支援を受けずに地域で生活していることがわかった。社会復帰支援を行うことで、うつ症状の改善や病状の安定を得られることもわかった。また、ひとつの通院先医療機関が工夫して行える支援方法は限られているが、その内容は医療機関によってかなり異なることがわかった。その支援方法は、デイケア・ショートケアモデル、カウンセリングモデル、訪問モデル、福祉サービス利用モデルに分けられる。
今年度は各支援モデルといくつかの支援を組み合わせたモデルを用いて、さまざまなタイプの対象者に対して支援を実施する。それぞれ6ヶ月間の支援を行い、対象者の社会生活レベルや病状の変化を評価する。医師、心理士、ケースワーカー、福祉施設職員など、他職種によるケース検討を行い、支援モデル毎の長所と短所、有効な支援対象者、詳細な支援方法や留意点などを検討する。更に、対象者タイプ別の有効な支援プログラムを明らかにする。
家庭の主婦など仕事に従事していない者のうつ病に対し、うつのタイプ別に有効な社会復帰支援プログラムを開発することができる。これまでのリワークプログラムなど有職者の社会復帰支援に加え、それ以外の幅広いうつ病患者を対象に社会復帰支援を普及・実施することができるようになることが期待される。社会復帰支援により、病状の長期化や不完全寛解、再入院のリスクを減らすことが可能となる。さらに、罹患率の高いうつ病を対象とする社会復帰支援方法を確立することは、幅広い対象者を家事や地域の役割やボランティア、パート労働などの社会的役割に復帰することができ、うつ病による社会的損失を減少させることができる。
精神科医療機関、精神障害者福祉施設のうつ病に関する機能を高めるための具体的方策を明らかにすることができる。
うつ病は生涯有病率の高い疾患であるが、その中には遷延するケースが少なくない。遷延うつから社会復帰するためには、専門の支援が必要であると思われるが、現在行われているうつに対する社会復帰プログラムとしては、リワークプログラム(復職支援)が普及し始めたばかりである。しかし、リワークプログラムには職業を持たない方、家庭の主婦やアルバイトの女性などは乗りにくいまた、女性には、仕事だけ無く、家事、育児、近所付き合い、趣味、などの多様な役割や活動領域を持っており、支援方法や支援場面を画一的にできない難しさがある。
そこで、「遷延うつの女性」を対象とした社会復帰プログラムを構築するための試行研究を行った。
6 つの医療機関において14 ケースの試行的支援を実施した。1 ケースを除いて、3 ヶ月の試行的支援を完遂することができた。支援を始めるにあたっては“うつサポーター”がアセスメントを行い、疾病や生活の状況、本人や家族の意向を確認し、対象者の課題を明らかにし、支援計画を立てた。支援の内容は、①ケースワーク面接のみ、②ケースワーク面接+デイケア・ショートケア、③デイケアのみ、④個別認知行動療法、⑤入院治療、に大きく分けられた。
支援の効果は、うつ症状の評価尺度HAM-D と、うつ病の社会機能評価尺度であるSASS を利用して評価した。支援の前後に全ての評価尺度を実施できた11 ケースのうち、1 例を除いてHAM-D とSASS の両方に有意な改善が見られた。HAM-D よりもSASS により大きな変化が見られ、今回の支援が主に社会機能の改善に役立つこと、社会機能の改善ほどではないが、うつ症状の改善にも効果があることがわかった。
今回の支援は、①心理的サポートと②生活上の問題解決サポートの二つを併せた支援、即ち、心理社会的支援であった。社会や家庭において孤立し、さまざまな問題に直面した遷延うつの女性に対しては、心理社会的支援が必要と結論づけられた。
今回、支援のために実際に利用した社会資源は医療機関が提供する、うつに特化したデイケアやショートケア、カウンセリングルームなどに限られていた。今回利用できるように準備していた福祉施設や訪問介護やベビーシッターなどは、利用を勧めても、手続きが煩雑、費用が掛かる、などから本人が利用に抵抗を示したために利用されなかった。
今回の支援は、各ケースを担当する“うつサポーター”が中心になって行われた。“うつサポーター”が担った役割は、①心理的サポート、②アセスメント、③サービス計画の立案と調整、であった。今回の支援では、これらの役割を“うつサポーター”がすべて担ったが、振り返ってみて、一部の役割(アセスメント)は別のスタッフが分担した方が良かったと考えられるケースもあった。
うつサポーターが中心になって行った支援に要した時間は3 ヶ月で一人あたり平均約7 時間半であった(デイケア、ショートケア、個人認知行動療法に要した時間を除く)。少ないコストで大きな成果が得られることが分かった。
平成20年度には次の調査を行った。
平成19年度の調査で拾えなかった若年者の救急対応ニーズを調査し、平成19年度の調査を補完した。また、未治療期間と受診経路等の実態を明らかにした。
地域で最も数が多い精神科診療所が、救急医療で現在どのような役割を担っているのか、今後、公的救急及び公的救急以外の救急医療においてどのような役割を担える可能性があるかを明らかにした。
地域の中で、現在、相談や訪問サービスを担っている相談支援事業所が、精神障害者の緊急時の対応で現在どのような役割を担っているか、今後担える可能性があるかを明らかにした。
救急受診の際に「診療情報の不足を補う仕組みがない」ことが大きな障害になっている。診療情報不足を補うツールとして平成19年度に試作したオレンジノートを平成20年度に実際に試用し、救急対応の改善に役立つのかを検証した。また、試用結果から、改訂版を作成した。
上記4つの調査から以下の結論を得た。
① 16~30歳の349人の統合失調症通院患者から回答を得た。その結果、若年精神障害者は、「不安イライラ」「暴力・物を壊す」「死にたい気持ちが高まる」などの困難な状況を壮年の精神障害者よりも多く経験していることが明らかになった。そのような困難な状態の時に取っている対応は、「家族に相談」が最も多かった。可能なら取りたい対応は、「主治医やかかりつけに電話相談」が最も多く、ニーズと実態が異なっていた。普段の相談先も圧倒的に家族が多く、家族の負担が大きいことが示唆された。16~30歳の統合失調症通院患者500人の未治療期間の平均は13.1ヶ月であったが、長期未治療であった患者も含まれていたため、ばらつきが大きかった。未治療期間の長短にかかわらず、受診前の相談先は家族が圧倒的に多く、家族の果たす役割が大きいことがわかった。公的機関や学校や職場などへの相談は少なかった。
② 精神科診療所793ヶ所から回答を得た。9割近くの診療所には精神保健指定医が勤務しており、約4人に1人が措置診察に協力し、1/3の診療所は平日17時以降もしくは休日に診療を行っていた。2008年5月に厚生労働省から通達された精神科救急医療体制整備事業の中で位置づけられている「外来対応型施設」「病院群輪番施設」「常時対応施設」「精神科救急情報センター」に対して、それぞれ約4割から5割の診療所が、医師の出向、オンコールによる相談、自院の参画などによって協力できる可能性があると回答した。また、地域の救急病院への精神科コンサルテーションについても、48%の診療所がオンコールなどで協力できる可能性があると回答した。但し、協力するためには「対応できないようなケースが来た場合のバックアップ体制」や「協力しやすい時間帯」「業務範囲の限定」などの条件が何れも挙げられていた。
③ 232ヶ所の相談支援事業所から回答を得た。84%が平日17時以降も電話相談を受けており、23%が24時以降も対応していた。日祝も相談に対応している事業所は69%であった。24時以降も電話対応をしている事業所は、対応していない事業所に比べて、利用者の「不安イライラ」「死にたい気持ちが高まった」などの困難な状況を多く体験していた。8割異常の相談事業所は、利用者の緊急時には、日中であれば「かかりつけ医への連絡」や「職員が自宅へ訪問」などを行っていた。しかし、夜間はそれらの対応は難しく、「職員に携帯電話を持たせて相談を受ける」「非番職員の招集」などによって対応しているところが多いが、夜間や休日には対応手段がない事業所が17%前後あった。相談支援事業所が緊急対応の役割をもっと担っていくためには、「人手不足」や「症状悪化への対応スキル」、「地域連携による他施設の協力」などの課題があることがわかった。
④ オレンジノート約3000部を、家族会や医療機関、福祉施設に配布した。試用後のアンケートには、患者72名、医師43名から回答を得た。患者・医師ともに、ノートは記入しやすく、有用であるとの回答が多かった。しかし、患者は「医師が忙しいので頼みづらい」と回答が目立った。情報更新やサイズなどの利便性、診療報酬点数化が課題としてあげられた。また、精神医療や福祉、行政などの専門家で検討会を行い、改訂を行った。高齢者等を対象とした国内外の同様の取り組みを参考に、本人や家族、支援者、医師などが記載し、自宅の冷蔵庫に専用容器にて保管するノートと、本人が携帯する緊急時の連絡先を記した名刺大のカードの二つに分割した改訂版を作成した。
主任研究者 : 柳澤 正義 (日本子ども家庭総合研究所所長)
分担研究者 : 穂積 登 (ほづみクリニック院長)
※ MELETEC CC : Mental, Legal and Technological Consultation Center